◎2017年1月28日(土)
銅親水公園駐車場(7:35)……林道Uターン(8:36)……斜面取り付き(8:42)……南尾根合流(10:20~10:40)……一般ルート合流(10:55)……中倉山(12:21~12:37)……一般ルート林道(13:50~14:11)……駐車場(14:57)
別に瀑泉さんから暗に催促されたからというわけでもないが、そろそろ雪の足尾の山に行かなきゃなとは思っていた。手っ取り早いところで中倉山か。備前楯山ではあっけなさ過ぎる。
銅親水公園には車が10台ほどあり、一台を除きもう出払った後だ。この時点では、中倉山も今日は混んでいるかなと思ったりしている。準備に手間取った。持ち物が多い。ザックには12本爪アイゼンを入れ、ピッケル、ワカン、ストック、そしてチェーンスパイク。全部使うとは思えないが、雪の状況を知らないからこうなる。ザックに吊るすのに時間がかかった。締めのベルトが足りず、ワカンはブラブラになってしまった。
足は普通の長靴。これには訳がある。スパ長にしたかったのだが、昨夜、スパ長にアイゼンをあてがってみるとどうも相性が悪い。仕方なく、普通の長靴にチェーンスパイクを巻くことにした。アイゼンの時はチェーンスパイクと交換になる。自分の長靴は固いので、アイゼン装着に問題はなかった。
衣類は上下ともに雪山仕様。これが雪山歩きのうっとうしいところだ。今日あたりは、いずれ暖かくなるだろうと思うと、ザックに収納するスペースはない。ザックの選択を誤った。着たきりではかなりの汗をかいてしまいそうだ。
(中倉山は真っ白け)
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(大平山もこうだ)
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(林道にも雪が積もっている。下は凍って固い)
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例の導水管橋は通れないようなので、遠回りになってしまった。ちょっと残念だが仕方がない。導水管橋を渡ってショートカットするという手段を知る以前はこうして歩いていたのだから。
林道は凍り付いていてもしばらくはそのまま歩けたが、圧せられた轍を頼りに歩くようになると結構滑り、チェーンスパイクを巻く。どうも今日は自分以外に先を歩いている人はいないようだ。雪の上にケモノ以外の足跡が見えない。ということは、駐車場の車の大半はアイスクライミングか社山といったところなのだろうか。大平山というのはないと思う。
シカが原型を留めぬままに死んでいた。サルかなと思ったが、シカとわかったのは足が残っていたからだが、斜面に急なところはなく餓死だろうか。死骸の風景を見るにしてはちょっと早いような気がする。
今日はこのまま林道を行く。井戸沢右岸尾根も歩かないし、その先の井戸沢にも入り込まない。途中から右岸尾根に通じるいくつかの枝尾根も登らない。
(中倉山登山口はケモノの足跡だらけ)
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(さらに先に行く)
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仁田元沢右岸の様子を眺めながら歩いて行く。ふみふみぃさんが舟石峠の方から越えるのに使うルートはあれだろうか。それ以外に容易げなところはない。中倉山一般道の入口にさしかかる。様子を見ると、踏み跡は結構あるが、そのほとんどがシカの足跡だ。雪の時期に歩く人はあまりいないのだろう。帰路はここに出る予定でいる。
先に行く。今日はこのまま仁田元沢のスリットダムを越えるつもりでいる。沢の水量やら凍結が気になった。だから長靴履きにこだわった。
橋を渡ると、轍はここでUターンしている。この先に轍はない。シカの足跡が点々とあるだけ。進むに連れてズボズボになった。深いところでは股までくる。ワカンに履き替えようかと思ったが、その前に頭が冷静になった。それ以前から、林道を歩きながら葛藤も続いてはいた。ここに至って、やはりそうだよなということになった。何と愚かなことを考えていたのだろう。1255m標高点を経由して中倉山に登るつもりでいた。
(あえなく、すごすごと戻ってくる)
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過去2回、仁田元沢を遡行した際、ここから行けやしないかと、左岸側の景色を何か所か写真に収めていた。支流の直瀑の脇から登ることは考えていない。その先から1255mに至るルートを想定していた。先まで行って無理な様子だったら、代案として一か八か沢から塔の峰に行ってもいいかとも。一か八か沢の入口はまだ先だ。その手前で、やはりな…となってしまった。
この雪の時期、自分には到底無理な話だ。ましてダムを越え、無事に沢に入ったところで直瀑のところまでも行けはしまい。これはどう考えても無謀だよな。やめよう。
やめるはいいが、ここまで来て一般ルートから登るつもりはない。橋に戻って中倉山の南斜面を眺める。適当なところから登れやしないか。一般ルートが途中で乗り上げる南尾根の末端からというのはまずは無理だ。残酷そうな岩場になっている。その堰堤を挟んだ東の沢型からなら登れそうだ。ああ行ってこう行って岩場上の南尾根か。ただ、ガレていそうだから、雪付きのこの時期は避けた方がいいかも。その右横に道っぽいのが見える。東に平らに続いている。あそこに行けば、他の手掛かりがあるかも。先ずは行ってみるか。この時点で、あわよくば作業道が上に通じているかもなと期待したりしている。
(ここを登ってみようか)
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(道に見えたのはこうなっていた)
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橋を渡って、取り付いてみる。上がると、遠目の道は平らな幅広の道の形状になっている。雪があるから道なのかは判別できない。ただの原っぱかもしれない。右に行けば、一般道に接するだろうと左に行く。だが、岩場にぶつかってそれきりの終点。それを越えると、当初行けそうと思った沢型にぶつかるようだ。道だとすれば、堰堤工事用の道だったのかも。鉄の杭のようなものも残っている。
(作業道が通っているのかと思ってしまった。これでも急だ)
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(尾根型が次第にはっきりしてくる。ぜいぜいしながらも登っている)
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となると、目の前のこの斜面を登るしかないか。よく見ると濃い踏み跡が上に続いている。これはラッキーと辿ると、すぐに散り散りになった。ただのシカ道だった。これでは黙々と上を目指すしかない。ここまで来たら、ためらわずにこれを登って南尾根に出よう。
濃いシカ道を選んでは上に行く。地面は水気を含んでかなり歩きづらい。まして斜面は急でちょっと登ると息切れになる。これを繰り返すから、対岸の仁田元沢の左岸尾根の高さはちっとも低くならない。幸いにも、痩せた灌木続きで陽射しだけは良い。汗が出てきた。上着を脱いで薄手のフリースだけで歩きたいが、ザックに収納スペースがないのではどうしようもない。手拭いを出しては頻繁に顔の汗を拭う。
(一か八か沢と、その先に熊の平。左は向山。右に塔の峰方面となる)
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ちょっとした展望地に出た。正面に一か八か沢と、その先の熊の平を望む。目線で熊の平の高さはこことほぼ同じになっている。熊の平から塔の峰への尾根は突き上げているようにも見える。今日あそこを歩けばどうだったろうか。うまく事が運んでいたろうか。まだ一か八か沢で往生していたかもしれない。
(岩が出てくる)
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(写真では感じないが、ここの通過が難所だった)
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岩が出てきた。そしてリョウブ主体の灌木が密度を増す。ヤブはない。この先、しばらくは岩稜帯が続く。今、長靴にチェーンスパイクのままで歩いている。両足のかかとが痛くなってきた。いずれ、休憩時にテーピングするつもりでいたが、結局は気にしながらもそのままで歩くことになる。
大きな岩場が現れた。一枚岩ではない。大きな岩が積み重なっている。ここは右手を行けば容易かなと、悪い足場を通って真下に出て登ろうとすると、その先に足場と手がかりがなくあっさりと振られる。一旦下って、左に転じて岩の隙間を攀じ登ろうとしたが、雪で滑ってあえなく敗退。結局、右手の岩裾の急斜面を巻いた。
歩いているところは、地図には表れてはいないが、登るに連れて小尾根状になっている。左手には南尾根の本体がちょっとばかり離れて見えている。乗り移るにしても、その間は谷状になっていて無理。その南尾根越しになだらかで平和そうな尾根が見えている。あれは庚申山からオロ山に至る尾根だろうか。
(右手・東側に尾根が見えてくる)
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(雑木林の間に備前楯山)
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岩稜帯はおとなしくなったが、まだ続いている。すでに障害にはならず、問題なく通過できる。尾根幅も広くなっている。うるさい灌木の間から、右手に南尾根から分岐する南東尾根が見え、振り向くと備前楯山の高さとほぼ同じくらいになっていた。
岩が消えると、一気に雪が深くなる。これまでは歩行に支障のない雪の量だった。ピッケルを出す。斜面はまだ急だ。ここはピッケルを頼りに歩いた方がいいだろう。
(雪が深くなって、左からの南尾根に合流した)
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ようやく左からの南尾根に合流した。今、標高1240m付近だ。たかが310m程登るのに1時間40分も費やしてしまった。神経も身体もかなりいかれている。休憩。
ここには新旧2本のテープがひらめいている。何でこんなところにテープがあるのか。一般ルートとの合流はまだ先だし、この先にもテープは続いていた。ここまでの区間にテープはなかった。ということは、南尾根に導くテープなのだろうか。それは極めて危険だろう。南尾根を意識的に下ろうとするようなハイカーがテープを付けるはずもない。ここまで来て、あらっ間違ったとテープを置き去りにでもしたのか。だとすれば、無責任極まりない話だ。実は、自分自身、かつてここまでテープに導かれて下って来たことがある。来過ぎたことに気づき、元に戻ればいいのに、一般ルートに復帰しようとここから直に南東に下った。岩場続きでかなり苦労した。非常識なハイカーのテープ付けには本当に困ったものだ。尾根外れの歩きのような、場所によっては、テープ頼りに下る場合もあるのだから。
雪も深くなったので、チェーンスパイクは外してワカンを履き、ストックを出す。だが快適とは言いづらく、気温が高くなり雪は重い。傾斜が緩やかになってもさっぱり進まない。一般ルートに合流すればトレースもあるだろう。それまでのほんの少しの辛抱だと楽観する。
(仁田元沢両岸の景色が良い)
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(一般ルートが右から入り込む)
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(こうなっていたのでワカンを外した)
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この尾根からの西側の展望は良好だ。仁田元沢の先にオロ山、手前に沢入山南尾根の岩峰。左手には塔の峰。予定していた1255m経由の尾根も見えているはずだ。やはりいつか歩いてみないとなぁ。
15分も四苦八苦して歩いていると、ようやく右から一般ルートが上がってきた。この先には踏み跡もあるはずとほっとしたが、人間の物はなく、ここもまたシカだらけの足跡だ。かなりがっかりしてしまったが、雪が急に少なくなって地肌が見えてもいる。これではワカンでは歩きづらく、チェーンスパイクに戻す。
(中倉山を前にして、またワカンに履き替える)
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(雪が深くなって)
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(どうしても塔の峰に目が向いてしまう。あの山名板、この冬越せるかななんて気になって)
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判断が甘かった。ここ一帯はシカなりイノシシが身体に付いたダニやらノミを雪にこすりつけて落とすところのようで、その分、雪も消えているだけのこと。結局、以前、「前山」の山名板のあったところで再びワカンに履き替える。ここで11時30分。
気分的に中倉山がとてつもなく遠い山になっている。目の前に見えているのに12時までに到着するのは困難だ。雪が深くなり、さらに進度が遅くなり、息切れも頻発する。一気に10mの高さを上がるのがやっとの有様。できるだけ西側の尾根の端を歩き、展望を楽しみながら歩くようにする。そうすれば、いくらかでも気が休まるというもの。雪のある風景は格別だ。殺風景なものも一変する。しかし、どうしても塔の峰が気になってしまう。あの山、仁田元沢側からは、スリットダム先の小尾根と山頂直下のドンピシャ尾根しか歩いていない。
(あそこに出れば、いくらか楽だろうが、もう青色吐息になっている)
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(こんな景色が待っているんだもんな…)
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(山頂に向かう)
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ようやく稜線が目の前に入った。ここは律儀に直進して小高いところを目指す。ここで12時。先ずは半月山、男体山、社山、大平山が目に飛び込んだ。ため息も出る。こうでなくちゃ。しばらくうっとりと眺める。このまま休んで下りたい程に体力は消耗しているが、ここまで来たら、足尾のご本尊というか、盟主様にお会いしなくてはなるまい。頭だけはさっきからチラチラと見えてはいるが、それでは失礼だ。重くなった足を引きずるようにして山頂に向かう。
(ようやく中倉山の山頂)
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山頂直下は深いところで膝が埋もれる。足もパンパンになってくる。そして、地肌がさらされた山頂が見えてきた。ここまで5時間近くもかかってしまった。雪のある時でさえ、どう歩いてもせいぜい3時間から3時間半程度のものだ。体力減退もあろうが、雪もいつもより多いのではないだろうか。
(その1)
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(その2)
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(その3)
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(その4)
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(その5)
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(その6)
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(その7)
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(その8。これくらいにしておくか。ヘタな写真だし)
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ともあれ、360度の展望を楽しむ。大げさかもしれないが、言葉では表現しづらい神々しいものがある。盟主様にもお会いした。これで満足。まったりもしたいところだが、風が強くてじっとしていられない。タバコに火をつけるのもようやくだ。腹も空いている。菓子パンを無理矢理腹に詰めて退散。例のブナを冷やかしに行きたいところだが、身体が言うことを聞きそうにもない。名残惜しい展望を楽しんで退散。ここからの雪景色を楽しむことだけが目的だったら、わざわざ遠回りもせず、井戸沢右岸尾根でも登って来れば賢かったが、紆余曲折もあった。初めてのところを歩いただけでも良しとしよう。
(ゆっくりもできず、早々に下る)
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(いい感じだった)
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下る。右岸尾根を下るかといった考えは浮かびもしなかった。
ワカンでの下り、日向の雪はかなりぬかる。これが日陰では下が固まって結構快適なところもある。雪が付くと、尾根型も明瞭になる。尾根型が左に分かれるのが見えた。あれっと思い、地図を出して行く末を確認すると、何だあのヤブ尾根か。あそこは下で苦労する。間違って下るところだった。
(一般ルートへの下り。これはすべてシカの踏み跡)
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(次第にルートがよくわからなくなる)
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一般ルートのままに下る。上り時と違って、あっけなく尾根外れのポイントに出た。ここからは谷型を下ることになる。人の足跡はないが、シカが通っている。その部分は雪も消えているだろうし、道型もしっかりしているはずだと高をくくったのは早計だった。
しばらくは迷うこともなかった。テープもあった。だが、シカの跡も右往左往して、道型は雪混じりで不明瞭。ましてだれも歩いていないから尚更だ。ここはクネクネした下り道だが、カーブらしきところに立ってはその先を見る。うっすらと道型が見えている場合もあれば、テープが助けにはなったりもする。さりとて、ここのテープもまた、東側の尾根に導いてくれるものもあるから、カーブなしで東にずっと直進しているようなら、そのテープは無責任テープと思った方がいいだろう。ロープが張られているところを通過するとほっとする。
(尾根を突っ切ると、ここだけは雪がない)
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(林道に出る)
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遠目で道型とテープを確認しながら下る。見慣れた最後のロープを目にして小尾根を突っ切る。じきに林道に出た。一般ルートとはいえ、結構、神経を使ったなぁ。明日歩く方がいたとしたら、自分の足跡ですんなり歩けるだろう。下りの分岐でそのまま南に下るトレースには要注意だが。
林道の傍らの倒木に腰を下ろして休憩。そして昼食。ポットの湯で味噌汁を飲む。そしておにぎり一個。これが精いっぱいだった。食欲は失せている。
(雪はだいぶ緩くなっている)
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(導水管橋の入口に黄色の立て札が)
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林道を下る。かなり暖かくなっていて、轍の凍結はすでにない。上着とフリースのチャックを開放して、だらしない格好で歩く。ワカンは外して雪で泥を落とす。もうこの先、チェーンスパイクも要るまい。足跡を目にした。朝はだれのもなかったが、往復の足跡が雪の上に付いている。何の目的かは知らないが、中倉山ではなかったのだろう。
導水管橋にさしかかる。敢えて上がりはしなかったが、黄色の立て札が見えた。「立入禁止」とでも記されているのだろうか。バリケードがあるわけでもなく、それを無視すれば渡れるようではある。そこまでして時間を稼ぎたくもない。
(駐車場の上で)
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親水公園に着いた。車は17台に増えている。周囲に人の姿は見えない。みんな、どこを歩いているのだろう。車のナンバーもまた地元組は1、2台しかなく、遠方ばかりだ。やはりアイスクライミングなのだろうか。
今日はかなり疲れた。腰から下も痛い。車のエンジンをかけると、駐車場の日向の気温は12℃表示になっている。やはり、雪山スタイルでは暑いわけだ。今日あたりは赤城山やら社山もかなりのハイカーが入ったろう。かたや足尾の中倉山にはだれもいずか。せっかくのあの展望を楽しめるのに何とももったいないことだ。
銅親水公園駐車場(7:35)……林道Uターン(8:36)……斜面取り付き(8:42)……南尾根合流(10:20~10:40)……一般ルート合流(10:55)……中倉山(12:21~12:37)……一般ルート林道(13:50~14:11)……駐車場(14:57)
別に瀑泉さんから暗に催促されたからというわけでもないが、そろそろ雪の足尾の山に行かなきゃなとは思っていた。手っ取り早いところで中倉山か。備前楯山ではあっけなさ過ぎる。
銅親水公園には車が10台ほどあり、一台を除きもう出払った後だ。この時点では、中倉山も今日は混んでいるかなと思ったりしている。準備に手間取った。持ち物が多い。ザックには12本爪アイゼンを入れ、ピッケル、ワカン、ストック、そしてチェーンスパイク。全部使うとは思えないが、雪の状況を知らないからこうなる。ザックに吊るすのに時間がかかった。締めのベルトが足りず、ワカンはブラブラになってしまった。
足は普通の長靴。これには訳がある。スパ長にしたかったのだが、昨夜、スパ長にアイゼンをあてがってみるとどうも相性が悪い。仕方なく、普通の長靴にチェーンスパイクを巻くことにした。アイゼンの時はチェーンスパイクと交換になる。自分の長靴は固いので、アイゼン装着に問題はなかった。
衣類は上下ともに雪山仕様。これが雪山歩きのうっとうしいところだ。今日あたりは、いずれ暖かくなるだろうと思うと、ザックに収納するスペースはない。ザックの選択を誤った。着たきりではかなりの汗をかいてしまいそうだ。
(中倉山は真っ白け)

(大平山もこうだ)

(林道にも雪が積もっている。下は凍って固い)

例の導水管橋は通れないようなので、遠回りになってしまった。ちょっと残念だが仕方がない。導水管橋を渡ってショートカットするという手段を知る以前はこうして歩いていたのだから。
林道は凍り付いていてもしばらくはそのまま歩けたが、圧せられた轍を頼りに歩くようになると結構滑り、チェーンスパイクを巻く。どうも今日は自分以外に先を歩いている人はいないようだ。雪の上にケモノ以外の足跡が見えない。ということは、駐車場の車の大半はアイスクライミングか社山といったところなのだろうか。大平山というのはないと思う。
シカが原型を留めぬままに死んでいた。サルかなと思ったが、シカとわかったのは足が残っていたからだが、斜面に急なところはなく餓死だろうか。死骸の風景を見るにしてはちょっと早いような気がする。
今日はこのまま林道を行く。井戸沢右岸尾根も歩かないし、その先の井戸沢にも入り込まない。途中から右岸尾根に通じるいくつかの枝尾根も登らない。
(中倉山登山口はケモノの足跡だらけ)

(さらに先に行く)

仁田元沢右岸の様子を眺めながら歩いて行く。ふみふみぃさんが舟石峠の方から越えるのに使うルートはあれだろうか。それ以外に容易げなところはない。中倉山一般道の入口にさしかかる。様子を見ると、踏み跡は結構あるが、そのほとんどがシカの足跡だ。雪の時期に歩く人はあまりいないのだろう。帰路はここに出る予定でいる。
先に行く。今日はこのまま仁田元沢のスリットダムを越えるつもりでいる。沢の水量やら凍結が気になった。だから長靴履きにこだわった。
橋を渡ると、轍はここでUターンしている。この先に轍はない。シカの足跡が点々とあるだけ。進むに連れてズボズボになった。深いところでは股までくる。ワカンに履き替えようかと思ったが、その前に頭が冷静になった。それ以前から、林道を歩きながら葛藤も続いてはいた。ここに至って、やはりそうだよなということになった。何と愚かなことを考えていたのだろう。1255m標高点を経由して中倉山に登るつもりでいた。
(あえなく、すごすごと戻ってくる)

過去2回、仁田元沢を遡行した際、ここから行けやしないかと、左岸側の景色を何か所か写真に収めていた。支流の直瀑の脇から登ることは考えていない。その先から1255mに至るルートを想定していた。先まで行って無理な様子だったら、代案として一か八か沢から塔の峰に行ってもいいかとも。一か八か沢の入口はまだ先だ。その手前で、やはりな…となってしまった。
この雪の時期、自分には到底無理な話だ。ましてダムを越え、無事に沢に入ったところで直瀑のところまでも行けはしまい。これはどう考えても無謀だよな。やめよう。
やめるはいいが、ここまで来て一般ルートから登るつもりはない。橋に戻って中倉山の南斜面を眺める。適当なところから登れやしないか。一般ルートが途中で乗り上げる南尾根の末端からというのはまずは無理だ。残酷そうな岩場になっている。その堰堤を挟んだ東の沢型からなら登れそうだ。ああ行ってこう行って岩場上の南尾根か。ただ、ガレていそうだから、雪付きのこの時期は避けた方がいいかも。その右横に道っぽいのが見える。東に平らに続いている。あそこに行けば、他の手掛かりがあるかも。先ずは行ってみるか。この時点で、あわよくば作業道が上に通じているかもなと期待したりしている。
(ここを登ってみようか)

(道に見えたのはこうなっていた)

橋を渡って、取り付いてみる。上がると、遠目の道は平らな幅広の道の形状になっている。雪があるから道なのかは判別できない。ただの原っぱかもしれない。右に行けば、一般道に接するだろうと左に行く。だが、岩場にぶつかってそれきりの終点。それを越えると、当初行けそうと思った沢型にぶつかるようだ。道だとすれば、堰堤工事用の道だったのかも。鉄の杭のようなものも残っている。
(作業道が通っているのかと思ってしまった。これでも急だ)

(尾根型が次第にはっきりしてくる。ぜいぜいしながらも登っている)

となると、目の前のこの斜面を登るしかないか。よく見ると濃い踏み跡が上に続いている。これはラッキーと辿ると、すぐに散り散りになった。ただのシカ道だった。これでは黙々と上を目指すしかない。ここまで来たら、ためらわずにこれを登って南尾根に出よう。
濃いシカ道を選んでは上に行く。地面は水気を含んでかなり歩きづらい。まして斜面は急でちょっと登ると息切れになる。これを繰り返すから、対岸の仁田元沢の左岸尾根の高さはちっとも低くならない。幸いにも、痩せた灌木続きで陽射しだけは良い。汗が出てきた。上着を脱いで薄手のフリースだけで歩きたいが、ザックに収納スペースがないのではどうしようもない。手拭いを出しては頻繁に顔の汗を拭う。
(一か八か沢と、その先に熊の平。左は向山。右に塔の峰方面となる)

ちょっとした展望地に出た。正面に一か八か沢と、その先の熊の平を望む。目線で熊の平の高さはこことほぼ同じになっている。熊の平から塔の峰への尾根は突き上げているようにも見える。今日あそこを歩けばどうだったろうか。うまく事が運んでいたろうか。まだ一か八か沢で往生していたかもしれない。
(岩が出てくる)

(写真では感じないが、ここの通過が難所だった)

岩が出てきた。そしてリョウブ主体の灌木が密度を増す。ヤブはない。この先、しばらくは岩稜帯が続く。今、長靴にチェーンスパイクのままで歩いている。両足のかかとが痛くなってきた。いずれ、休憩時にテーピングするつもりでいたが、結局は気にしながらもそのままで歩くことになる。
大きな岩場が現れた。一枚岩ではない。大きな岩が積み重なっている。ここは右手を行けば容易かなと、悪い足場を通って真下に出て登ろうとすると、その先に足場と手がかりがなくあっさりと振られる。一旦下って、左に転じて岩の隙間を攀じ登ろうとしたが、雪で滑ってあえなく敗退。結局、右手の岩裾の急斜面を巻いた。
歩いているところは、地図には表れてはいないが、登るに連れて小尾根状になっている。左手には南尾根の本体がちょっとばかり離れて見えている。乗り移るにしても、その間は谷状になっていて無理。その南尾根越しになだらかで平和そうな尾根が見えている。あれは庚申山からオロ山に至る尾根だろうか。
(右手・東側に尾根が見えてくる)

(雑木林の間に備前楯山)

岩稜帯はおとなしくなったが、まだ続いている。すでに障害にはならず、問題なく通過できる。尾根幅も広くなっている。うるさい灌木の間から、右手に南尾根から分岐する南東尾根が見え、振り向くと備前楯山の高さとほぼ同じくらいになっていた。
岩が消えると、一気に雪が深くなる。これまでは歩行に支障のない雪の量だった。ピッケルを出す。斜面はまだ急だ。ここはピッケルを頼りに歩いた方がいいだろう。
(雪が深くなって、左からの南尾根に合流した)

ようやく左からの南尾根に合流した。今、標高1240m付近だ。たかが310m程登るのに1時間40分も費やしてしまった。神経も身体もかなりいかれている。休憩。
ここには新旧2本のテープがひらめいている。何でこんなところにテープがあるのか。一般ルートとの合流はまだ先だし、この先にもテープは続いていた。ここまでの区間にテープはなかった。ということは、南尾根に導くテープなのだろうか。それは極めて危険だろう。南尾根を意識的に下ろうとするようなハイカーがテープを付けるはずもない。ここまで来て、あらっ間違ったとテープを置き去りにでもしたのか。だとすれば、無責任極まりない話だ。実は、自分自身、かつてここまでテープに導かれて下って来たことがある。来過ぎたことに気づき、元に戻ればいいのに、一般ルートに復帰しようとここから直に南東に下った。岩場続きでかなり苦労した。非常識なハイカーのテープ付けには本当に困ったものだ。尾根外れの歩きのような、場所によっては、テープ頼りに下る場合もあるのだから。
雪も深くなったので、チェーンスパイクは外してワカンを履き、ストックを出す。だが快適とは言いづらく、気温が高くなり雪は重い。傾斜が緩やかになってもさっぱり進まない。一般ルートに合流すればトレースもあるだろう。それまでのほんの少しの辛抱だと楽観する。
(仁田元沢両岸の景色が良い)

(一般ルートが右から入り込む)

(こうなっていたのでワカンを外した)

この尾根からの西側の展望は良好だ。仁田元沢の先にオロ山、手前に沢入山南尾根の岩峰。左手には塔の峰。予定していた1255m経由の尾根も見えているはずだ。やはりいつか歩いてみないとなぁ。
15分も四苦八苦して歩いていると、ようやく右から一般ルートが上がってきた。この先には踏み跡もあるはずとほっとしたが、人間の物はなく、ここもまたシカだらけの足跡だ。かなりがっかりしてしまったが、雪が急に少なくなって地肌が見えてもいる。これではワカンでは歩きづらく、チェーンスパイクに戻す。
(中倉山を前にして、またワカンに履き替える)

(雪が深くなって)

(どうしても塔の峰に目が向いてしまう。あの山名板、この冬越せるかななんて気になって)

判断が甘かった。ここ一帯はシカなりイノシシが身体に付いたダニやらノミを雪にこすりつけて落とすところのようで、その分、雪も消えているだけのこと。結局、以前、「前山」の山名板のあったところで再びワカンに履き替える。ここで11時30分。
気分的に中倉山がとてつもなく遠い山になっている。目の前に見えているのに12時までに到着するのは困難だ。雪が深くなり、さらに進度が遅くなり、息切れも頻発する。一気に10mの高さを上がるのがやっとの有様。できるだけ西側の尾根の端を歩き、展望を楽しみながら歩くようにする。そうすれば、いくらかでも気が休まるというもの。雪のある風景は格別だ。殺風景なものも一変する。しかし、どうしても塔の峰が気になってしまう。あの山、仁田元沢側からは、スリットダム先の小尾根と山頂直下のドンピシャ尾根しか歩いていない。
(あそこに出れば、いくらか楽だろうが、もう青色吐息になっている)

(こんな景色が待っているんだもんな…)

(山頂に向かう)

ようやく稜線が目の前に入った。ここは律儀に直進して小高いところを目指す。ここで12時。先ずは半月山、男体山、社山、大平山が目に飛び込んだ。ため息も出る。こうでなくちゃ。しばらくうっとりと眺める。このまま休んで下りたい程に体力は消耗しているが、ここまで来たら、足尾のご本尊というか、盟主様にお会いしなくてはなるまい。頭だけはさっきからチラチラと見えてはいるが、それでは失礼だ。重くなった足を引きずるようにして山頂に向かう。
(ようやく中倉山の山頂)

山頂直下は深いところで膝が埋もれる。足もパンパンになってくる。そして、地肌がさらされた山頂が見えてきた。ここまで5時間近くもかかってしまった。雪のある時でさえ、どう歩いてもせいぜい3時間から3時間半程度のものだ。体力減退もあろうが、雪もいつもより多いのではないだろうか。
(その1)

(その2)

(その3)

(その4)

(その5)

(その6)

(その7)

(その8。これくらいにしておくか。ヘタな写真だし)

ともあれ、360度の展望を楽しむ。大げさかもしれないが、言葉では表現しづらい神々しいものがある。盟主様にもお会いした。これで満足。まったりもしたいところだが、風が強くてじっとしていられない。タバコに火をつけるのもようやくだ。腹も空いている。菓子パンを無理矢理腹に詰めて退散。例のブナを冷やかしに行きたいところだが、身体が言うことを聞きそうにもない。名残惜しい展望を楽しんで退散。ここからの雪景色を楽しむことだけが目的だったら、わざわざ遠回りもせず、井戸沢右岸尾根でも登って来れば賢かったが、紆余曲折もあった。初めてのところを歩いただけでも良しとしよう。
(ゆっくりもできず、早々に下る)

(いい感じだった)

下る。右岸尾根を下るかといった考えは浮かびもしなかった。
ワカンでの下り、日向の雪はかなりぬかる。これが日陰では下が固まって結構快適なところもある。雪が付くと、尾根型も明瞭になる。尾根型が左に分かれるのが見えた。あれっと思い、地図を出して行く末を確認すると、何だあのヤブ尾根か。あそこは下で苦労する。間違って下るところだった。
(一般ルートへの下り。これはすべてシカの踏み跡)

(次第にルートがよくわからなくなる)

一般ルートのままに下る。上り時と違って、あっけなく尾根外れのポイントに出た。ここからは谷型を下ることになる。人の足跡はないが、シカが通っている。その部分は雪も消えているだろうし、道型もしっかりしているはずだと高をくくったのは早計だった。
しばらくは迷うこともなかった。テープもあった。だが、シカの跡も右往左往して、道型は雪混じりで不明瞭。ましてだれも歩いていないから尚更だ。ここはクネクネした下り道だが、カーブらしきところに立ってはその先を見る。うっすらと道型が見えている場合もあれば、テープが助けにはなったりもする。さりとて、ここのテープもまた、東側の尾根に導いてくれるものもあるから、カーブなしで東にずっと直進しているようなら、そのテープは無責任テープと思った方がいいだろう。ロープが張られているところを通過するとほっとする。
(尾根を突っ切ると、ここだけは雪がない)

(林道に出る)

遠目で道型とテープを確認しながら下る。見慣れた最後のロープを目にして小尾根を突っ切る。じきに林道に出た。一般ルートとはいえ、結構、神経を使ったなぁ。明日歩く方がいたとしたら、自分の足跡ですんなり歩けるだろう。下りの分岐でそのまま南に下るトレースには要注意だが。
林道の傍らの倒木に腰を下ろして休憩。そして昼食。ポットの湯で味噌汁を飲む。そしておにぎり一個。これが精いっぱいだった。食欲は失せている。
(雪はだいぶ緩くなっている)

(導水管橋の入口に黄色の立て札が)

林道を下る。かなり暖かくなっていて、轍の凍結はすでにない。上着とフリースのチャックを開放して、だらしない格好で歩く。ワカンは外して雪で泥を落とす。もうこの先、チェーンスパイクも要るまい。足跡を目にした。朝はだれのもなかったが、往復の足跡が雪の上に付いている。何の目的かは知らないが、中倉山ではなかったのだろう。
導水管橋にさしかかる。敢えて上がりはしなかったが、黄色の立て札が見えた。「立入禁止」とでも記されているのだろうか。バリケードがあるわけでもなく、それを無視すれば渡れるようではある。そこまでして時間を稼ぎたくもない。
(駐車場の上で)

親水公園に着いた。車は17台に増えている。周囲に人の姿は見えない。みんな、どこを歩いているのだろう。車のナンバーもまた地元組は1、2台しかなく、遠方ばかりだ。やはりアイスクライミングなのだろうか。
今日はかなり疲れた。腰から下も痛い。車のエンジンをかけると、駐車場の日向の気温は12℃表示になっている。やはり、雪山スタイルでは暑いわけだ。今日あたりは赤城山やら社山もかなりのハイカーが入ったろう。かたや足尾の中倉山にはだれもいずか。せっかくのあの展望を楽しめるのに何とももったいないことだ。