◎2016年5月28日(土)
銅親水公園駐車場(6:15)……仁田元沢入渓(7:30)……ドンピシャ尾根取付き(9:30-10:00)……塔の峰(11:50-12:25)……熊の平(13:35)……向山・1251m三角点(14:10)……岩峰群尾根・仁田元沢右岸尾根……東屋(16:50)……駐車場(17:13)
3月に親水公園の駐車場で、足尾のRRさんから、仁田元沢から北側の尾根を使って塔の峰に登ってこられたという話をうかがった。その節はペンキ落書きのこともあって、こちらから、コースを根掘り葉掘り聞くわけにもいかなかったが、「ドンピシャで塔の峰の山頂に出られる」とおっしゃっていたことだけは記憶に残り、後日、これを頼りに地図で調べた。それらしき顕著な尾根が3本ほどあるが、ドンピシャとなると、ほぼ特定できる。いずれ行かないとなぁと思っていた。何せ、塔の峰は山名板を設置するほどの好きな山だし、RRさんのように全尾根踏破まではいかずとも、危ういルート以外なら、聞けば試してみたくもなる。
駐車場には10台ほどの車。釣りの方が2人いた。それ以外は出払っている。そういえば、手前の無料駐車場にも釣り準備の方が複数いた。仁田元沢に釣り人が入っていなけりゃいいが。余計な神経を使いたくはない。3週間前に行かれた瀑泉さんが見た「大イワナ」の真新しいペンキをふと思い出す。天気はどんよりだが、中倉山も見えている。午後から陽が出てくる予想にはなっている。
(横場山が黄色くなっている)
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(これが正体)
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(ホタルブクロと言うらしい)
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歩き出す。横場山の斜面が黄色い花に覆われている。赤倉山の裾野にも見えた。この花、林道でも見かけたが、エニシダのようだ。荒れ地でも育つ花なのだろう。上に行くほどにエニシダは少なくなっていった。
林道歩き。いつもの見慣れた光景だが、緑がかなり濃くなっている。サルの群れが横切る。ほどなく、いつものようにゼーゼーとなった。中倉山登山口で休憩。微風ながらも汗をかいている。今日は履き替え用の地下足袋を荷物に入れているし、水も普段持つこともない2リットルだ。さらに念のためにロープも持ってきている。今は沢靴を履いて歩いている。この沢靴、沢よりも尾根筋や林道を歩いている方が多いから、そろそろ底がダメになりつつある。ソール交換だけでも7,000円するらしいから、買い替えだろう。昨年、瀑泉さんの真似をしてサワーサンダルなるものを購入したが、今のところ出番はない。
(帰りはあの尾根を右から左に下ることになる)
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(仁田元川五号砂防堰堤)
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一か八か沢は繁った葉で薄暗くなっていた。上からでは見通しがきかず、沢の様子は窺えない。復路はここを下って来ることも想定している。スリットダム(仁田元川五号砂防堰堤)に到着。これを越えるのは4回目になる。1回目は、越えてから沢を渡ってすぐに右岸尾根に向かったから、沢の歩きは実質3回目だ。今日の水量はいつもよりも少ないような気がする。それはそれで助かるが。
沢靴で来ているから、ここではヘルメットをかぶり、ネオプレーンの脚絆を巻くだけ。釣り人はいないようだ。石の上に濡れた足跡は見えない。この天気では、足跡が残っているはずだ。まずはほっとした。ただ、左岸から注ぐ直瀑まで行ってみないことには何ともだ。あそこで不快な思いをしている。
(では)
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(水はやはり少ない気配)
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今日の仁田元沢遡行、今季の沢初めとはいえ、沢歩きを楽しむ気分で来ているわけではない。目的はドンピシャ尾根だから、まして一人での遡行だ。ハイトスさん、ちょっとばかり泳いでよといった余興というか楽しみはない。水流に逆らうようなことはせず、巻けるところは巻くことにするつもり。沢で体力を消耗していたのでは、本番の尾根が登れなくなる。
沢の水はまだ冷たい感じだが、季節相応だろう。濡らすまいと、石の上をピョンピョンと飛び跳ねて歩いたが、ヌメリで滑ってドボン。もうしょうがないなと、ジャボジャボ歩きになってしまった。むしろ、これが自然の沢歩きというもの。
(最初の左岸からの直瀑が見えてくる)
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(こんな状態だ。裏見の滝どころか裏が見えている)
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(こちらも)
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左岸直瀑が見えてきた。周囲を見渡す。ふみふみぃさんが中倉山からこの辺に降り立ったようだ。上り時使用にしても、ここには、そんな安全に登れそうなところは自分には見あたらない。むしろ、先の方にはいくつかあった。今度、機会があったら試してみよう。ブナの樹にドンピシャで着くルート。先の西側からが安全だろう。
水量はやはり少ない。左岸直瀑は裏見の滝にはなっていないし、水をかぶることもなく「ハイトスさん、行かないの~」のスダレ状滝の前に出られた。以前、ここでクサリを見たが、水量の少ない今に見ても、それらしきものは見あたらない。流されてしまったのか。ここはためらわずに左岸側をあっさりと巻く。
(まぁ、それなりに)
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(楽しんではいる)
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(飽きることはない)
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(あんなのや)
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(こんなのや)
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(2番目の左岸直瀑はチョロチョロ)
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(これでもういいか)
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次々に見覚えのある小滝を通過したが、水量のない分、さほどのインパクトはなく、そこらの平凡な沢といったイメージだけが増す。自分には、これで十分な沢レベルで、結構、楽しみながら歩いている。先の左岸に落ち込む滝も、水はチョロチョロ。昨日は雨も降らなかったのだろうか。ちょっと寂しいといった気持ちもなくはない。
(正面に岩峰。3週間前の瀑泉さん写真とはえらく違って、かなり隠れてしまっている)
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退屈し始めた頃に正面に岩峰が見えてきた。地図上の1162m標高点の近く。以前、この辺りの尾根から沢入山に登った。沢入山の南尾根といったところか。標高差でいえば、沢入山までは530mほど。かたやドンピシャ尾根の場合は、末端から塔の峰までは500mくらいだが、取り付きまではここから70~80m近く登らないといけない。沢の方が高度差を感じないで歩けるのがうれしい。尾根末端はまだ先だが、右岸側の形相が気になってくる。同時に、春ゼミがやたらと鳴いていることにここで気づいた。春ゼミの鳴き声は、尾根に乗るとやがて聞こえなくなる。そういえば、「大イワナ」ペンキには気づかなかった。今にして改めて思い出した。
(この奥に12m滝があるらしいが、これでは)
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右から枝沢が入る。瀑泉さんのレポには、この支流の先に12m滝があるとのことだが、この水具合では大して見栄えのある滝ではあるまい。沢の水の少なさにほっとしながらも、激しい流れの小滝を見られないでがっかりしている矛盾した気分。
一回間違った。ここならと思って入り込んだ尾根の末端。地図を見るとまだ先で、これを登ると、1528mに出てしまう。この先、なだらかな斜面があまり目に入らない。せいぜい沢状の窪みのところは緩いが、尾根らしき出っ張りは崖やら急斜面になっている。ドンピシャ尾根は大丈夫だろうかと気になってくる。地図どおりなら楽勝だろうが、今のところそうはなっていない。無理ならその先の尾根か。それとて、瀑泉さんの写真を見る限りはもろそうな尾根の気配だった。
※記載事項にミス。瀑泉さんコメントご指摘で、12m滝のある支流沢はもっと先であった。そういえば、ハイトスさん、みー猫さんと行った際、この先の分岐でどちらを選ぶが迷うことがあった。その分岐沢だった。写真コメントも含めて、原文はそのままにして、ここで訂正。
(この辺から取り付くとする)
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沢に戻って、なおも行く。ここだなと思うところは緩斜面でほっとした。そこでしばらく休み、沢靴から地下足袋に履き替える。そのまま登ってもいいのだが、水を含んだ靴下がよじれ、いずれはマメができたのでは苦痛な歩きになる。すべて交換する。水分が加わり、ザックが重くなった。少し軽くしようと、ストックを外す。地下タビはスパイク、脚絆はメッシュ。スボンの裾は中に入れずに外に出した。中に入れるのは素人らしい(笑)。沢靴がなかなか脱げず、さりとて無理矢理やると、過去の経験からして足が攣る。時間がかかった。ついでに、沢上がりで足が攣らないようにと、両足にふくらはぎサポーターを巻く。足元スタイルだけはこれでいいだろう。
(ドンピシャ尾根の末端部)
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(いきなりこんなだ)
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ドンピシャ尾根末端に向かう。そして登る。いきなり高い岩場が現れた。まぁこんなものだろうなとこらえる。巻くことを考えたが、巻きはできそうにもない。岩溝を伝って何とか行けそうだ。木に手をかけたらポロッと折れた。足元はグズグズ。生きていそうな根や木につかまって何とか登ったが、ストックがやたらにじゃま。収納したいが安定した場所がない。ザックに括ったヘルメットが木や岩角にぶつかって、頻繁に金属音ががなる。
岩場を何とか乗り越えた。カラカラまではならないが、ノドが渇いた。水を飲む。ふと、左下を見ると、何だ、末端から登らずともに、緩い沢状のところからここに這い上がれたじゃないの。後の祭り。取りあえず最初のアクシデントは突破したが、ここを下る気にはなれない。ロープが必要だ。RRさんには印象にも残らないところだろうが。
(続いてシャクナゲ)
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(そして普通の尾根になる)
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続いてすぐにシャクナゲヤブが出てきた。ふみふみぃさんの言う「シャクナゲさん」とは違っておとなしい繁みだ。花はすべて落ちている。それでも、ザックにストックを戻したから、ストックの先端がシャクナゲの枝に引っかかって、歩行が滞る。一帯がそうなっているから、ここを巻くとなるとかなりの迂回になりそうで、辛抱して行くしかない。
シャクナゲヤブの通過は2回目のアクシデントともなるのだが、試練というほどのものではない。解放されると、地味系の普通の尾根になった。邪魔をするのはせいぜいコメツガ程度のもので、さりとて支障にはならない。この尾根、瀑泉さんブログのコメントに、RRさんが「全体に薄暗い尾根」と記されていたが、この時期なのか、さほどの暗さは感じないでいる。
(特徴はない。ヤブも大してない)
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(こんな開けたササ原もある。向かいは中倉尾根)
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ツツジは最近まで咲き誇っていたのか、地面に随分とピンクの花びらが落ちている。盛りの頃はきれいだったろう。今はひっそりと白いツツジがあちこちに咲いている。遅れ咲きのアカヤシオはもう疲れきっている。
普通の尾根に比べると傾斜が少しは急か。今のところ、展望が決して良くはなく、新緑のこの時期よりは、葉の落ちかかった晩秋の頃の歩きがいいかもしれない。尾根のこの先は見えず、振り向いてうかがえる中倉尾根は視界の狭いものだ。沢入山とオロ山を結ぶなだらかな丘状の稜線の一角が見えている。
シカ道だけが通っていて、これを辿って登ると楽だ。急なところはジグザグにもなっている。当然のことながら、テープ類は一切ない。間違うことのない明瞭なこの尾根にテープをつけるのがいたとしたら、それはアホでしかあるまい。
(そして一基目。シカ骨を集めたのかと思った。RRさんらしからぬケルン)
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(中倉山の上に男体山の頭)
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(二基目。かろうじてか)
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低いササ原や樹の根の張り出しが続く。傾斜の緩やかなところに出ては休む。たまに中倉山が見えることもあるが、上に登っても、まだ眺望を期待はできないでいる。1480m付近で小ぶりのケルンを目にした。周囲に大した石はなかった。寂しいケルンになっている。RRさんも石を探し回ったのだろう。ここでドンピシャ尾根行程のほぼ半分だ。
展望がぽっと開けた。中倉山の台地が平らに見える。後ろには男体山。すぐ隣に塔の峰の東側に至る尾根が並行して乗り上げている。この展望、この尾根としては貴重かもしれない。そして、改めてのケルンがあった。石の量が少し増えた。さらに積もうと思ったが、手ごろな石はなかった。
(オロ山と沢入山の間の稜線)
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(シャクナゲ)
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(大きな岩がゴロゴロしはじめた)
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(巨岩を巻いた)
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沢入山が何とか見えてきた。ここは、上がるに連れ、徐々に展望が広がる尾根のようだ。もっと期待したいが、どうだろうか。塔の峰山頂からも、中倉尾根はストレートに見えないのだから。
ゴツゴツした大きな石が出てきた。そしてシャクナゲの花がまばらに咲いていた。ここも、シャクナゲさんレベルになってはいない。シャクナゲに気をとられていたが、石は次第に大きくなっていき、やがては巨岩になった。まさか、ここで敗退はないだろうな。左右、どちらでも巻けそうだ。左から巻いた。さほどの恐怖は感じなかったが、巨岩の上に出てほっとした。蛇足だが、ノドは渇かなかった。強いての3つ目のアクシデントか。一服する。標高1580m付近だ。あと150m。
(一服)
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(遅れて来たアカヤシオ)
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この先、コメツガ、カラマツ、ブナといった、針葉樹、広葉樹ごちゃ混ぜの雑木の中の登りになった。天気の良くない日は確かに薄暗い、不気味なところかもしれない。盛りのアカヤシオが1株目に入った。今季に見てもらったのはクマ、シカ、サル以外は自分だけだろう。来年も、再来年も見る者もなくひっそりと咲き続けるのだろう。
(ようやくの展望地。右端、男体山)
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(左にオロ山。これが視界の限界だったが)
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右手・西側にようやく今日一番の展望地。オロ山から男体山が見渡せた。日光白根も見える。残念ながら、皇海山と庚申山は西隣の尾根の突き上げが邪魔で見えない。ということは、展望を楽しむならあの尾根かもしれない。
(間もなく山頂)
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(ここに出た)
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そろそろ最後のひと踏ん張りだ。左手上は空が切れている。ここだけが突き上げ状態になっている。ヤセた樹の間をかいくぐり、作業用らしき細い半端な長さの残置ヒモが樹に結わえてあるのを見ると、ひょっこりと山頂に出た。山頂石柱までは10mのほぼドンピシャだった。このドンピシャ尾根、地味尾根の部類ではあったが、アクシデントも大したことはなく、自分にはお好み系だった。RRさん、ありがとうございました。
(シロヤシオは満開)
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(こちらも)
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山頂もまた見慣れた風景だが、今日は新緑というか深緑で、あちこちに白いツツジが咲いている。まずは山名板を手拭いで拭いた。セルフ写真も欠かせない。写った我が表情は、いつも以上ににこやかだ。周辺をぐるっと見回り、一通りの手続きを終え、ようやく倒木に腰かけてまったりとなる。だ~れもいない。静かだ。
陽はまだ出ていないが、じわじわと暑くなっていて、身体はかなり汗ばんでいる。微風が流れて心地よい。12時。それほどの食欲はないが、ランチタイムにする。オニギリ一個とウィダーインを半分。
さて、下りはどうしよう。目的は達成したのだから、余計な歩きはすまいと思ってはいるが、安易に歩いて長い車道歩きになるのではたまらない。さりとて、また仁田元沢に下るのもどんなものか。家には、岩峰尾根下り予定と書き置きしてきている。一か八か沢もいいが、スパ足袋では危ないのではないか。現にここまでの尾根で、岩場で軽く滑っている。当初の予定どおり、向山(1251m三角点)経由で岩峰群尾根に入り、ドンピシャで親水公園に出るルートで下るか。それにしよう。ここまではいいが、実のところ、スパ足袋での岩峰歩きはかなり危うく、必然的に慎重歩きになり、体力消耗もさることながら、相応の神経疲れをすることになってしまう。スパイクのない地下足袋にすればよかったと後悔した。そんなことは理屈以前の問題なのだが。
(シロヤシオを見ながらの下り)
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シロヤシオを見ながらの下りになった。このシロヤシオ、葉の緑色に吸収され、青空でもバックにしないと、ツツジなのかどうかもわからない。空はまだ白い。まずは1528m標高点を目指す。3月に来た際には、その先の熊の平手前の岩場で南側に巻いて失敗している。今日はしっかりと踏み跡を追うようにしないと。ここは春ゼミもまだ鳴いていない。シーンとして音もなく寂しい。スズだけでは心もとなく、最近入手した、けたたましい音を出すホイッスルをたまに吹く。
(赤いのが出てくる)
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(これでは尾根も外してしまう)
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1528mを過ぎると、白に混じって赤いのをちらほらと見かける。やがて、白は消え、赤だけになった。何ともすごいヤマツツジの群生になっている。歩くピッチが一気に遅くなり、尾根から外れることしばしば。だが、アカヤシオと違って、飽きるのが早いのもまた確かで、先週も赤城山で見ていたので、次第に、またか、もう終わってくれないかとうんざりするようになっていく。
(最初の岩に青ペンキ)
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(うるさく続いて)
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(熊の平)
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岩場にさしかかる。今日はうまくここに来られた。3月の時は、おそらく、この手前で別のところを歩き、見上げると強烈な岩場になっていたので、そのままに大巻きしたといったところだろう。最初の岩には、大分薄いが例の青マルの青ペンキが落書きされていた。
熊の平に到着。ここもまた手順があって、まずは念のために謎のオブジェを確認。歩き回ることはなかった。倒木に腰かけて一服して水を飲み、チョコレートを食べウィダーインの残りを飲む。一か八か沢下りが気になったが、やはりこのまま岩峰群尾根の下りにしよう。
向山にはここからの直登を考えていたが、かなり高く見え、舟石新道経由で1200mピークとの鞍部から登ることにする。かなり前、向山から熊の平に直に下り、枝ヤブのひどさに辟易したことがある。ここは体力温存とする。
(向山に登る)
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(春ゼミ)
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(向山山頂から)
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散々下った後の登り返しはつらい。たかが80mほどのものだが、かなり応えた。向山の山頂でへたり込んだ。春ゼミが飛んできて、目の前で落下した。もう大分弱っているのだろう。手のひらに乗せたら、鳴き声をあげ、最後のあがきで飛んで行った。
ここからは岩峰ルートになる。ここは一昨年、末端から歩いている。今日はその逆歩き。本来の岩峰群コース(ハイトスさんと歩いたことがある)は舟石新道に下るようだから、勝手に「仁田元沢下流部右岸尾根」とした。余談だが、先日、仁田元沢右岸尾根(南岸尾根と記す方もいるが)をネットで検索していたら、この右岸尾根を経由して中倉山に行った方がいて、どうやって行ったのかと驚きながら記事を拝見すると、井戸沢右岸尾根と勘違いされての記述だった。今でも気づかぬままだろう。地図を見たりしないのだろうかと不思議に思った。
では下る。身体はかなり汗ばんで、極めて不快な状況。見上げると、ここでようやく陽が出てきた。こうなったら、さっさと下ってしまいたい。
(下って登ると)
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(第Ⅳ峰)
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(第Ⅳ峰から。これから下る尾根。Ⅲ、Ⅱ、Ⅰが見えている)
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一旦、隣のピークに向かい、そこからの下りになる。やはり、緑が濃くて、林の中は薄暗くなっている。またヤマツツジが群れ出したりするから、初めての尾根の気分だ。2回も歩いているのに、まったく記憶なしの風景になっている。隣のピークは細くて平ら。変哲のないピークだ。ここからさらにどんどん下って、これでいいのかと思ったところで登り返す。テープはないが、薄い踏み跡は続いている。突然、藪から棒に台形状の岩峰が目の前に現れた。これはだれが名づけたのか第Ⅳ峰。向山を第Ⅴ峰と呼ぶ方もいらっしゃる。
この第Ⅳ峰、向山の南西側にある1250mピークから眺めた際には、何とも不気味な岩峰に見えていた。ここを登らずに済ませられる方策はないかと探りを入れたが、周囲は切れ落ちていて、一旦登って反対側に下るしかないことがわかった。仕方ない。ここで、スパ足袋が岩場では危ういことを知った次第。
長居をするところでもないので、さっさとザレ場を下って尾根に復帰。ここもまたどんどん下る。そして鞍部。この鞍部の横切りが、ふみふみぃさん秘密の抜け道ルートらしい。ここを下ってみるかと思いもしたが、思っただけで終わり。ガレ場、ザレ場の下りを、この地下足袋ですんなりと歩けるわけがあるまい。確実にひっくり返る。
(1133mから第Ⅲと第Ⅱ峰)
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(第Ⅱへのプチキレット)
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(第Ⅲを振り返る。後ろに第Ⅳ)
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登り上げて1133m。第Ⅲ峰はこの先にある。第Ⅲ峰越しに第Ⅱ峰、第Ⅰ峰が見えている。これだけでうんざりする。第Ⅲ峰からは露骨にヤセたザレ尾根になった。強い風が吹いていたら危険だろう。
(第Ⅰ峰。あちらに用事はないのに間違って向かってしまった)
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慎重に渡って第Ⅱ峰。ここでほっとする。というのは、第Ⅰ峰には用事がないから、岩峰はこれで終了となる。一服して大休止。ところが、ここでとんだボケをした。ここからは一旦、北側に下らないといけないのだが、第Ⅰ峰への踏み跡を辿れば、自然に分岐になっていると勘違いしていた。分岐はなく、そのまま第Ⅰ峰に向かっている。第Ⅱ峰に戻った。大汗をかいた。北側にはストレートの踏み跡が続いていた。第Ⅰ峰に行っていたら、舟石林道を歩くことになっていたろう。
ところで、背中のヘルメットの存在はすっかりと忘れていた。こんな険阻なところでこそかぶるものではなかったのか。
(普通の尾根に戻った。RRさんがクマとにらみ合ったのはこの辺だろうか)
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(まだまだ高い。正面は横場山)
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(フェンス沿いに)
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(こんなところもある。かなり暑くなっている)
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ようやく、井戸沢右岸尾根のような尾根になった。ザレたところもあるが、ちょっとしたヤブやら樹もあって、安心して歩ける。ところが、これもまた束の間で、フェンスが出てくると、えらく歩きづらくなる。フェンス沿いに踏み跡は続いているが、崩落しているところもあって、一昨年よりも条件が悪くなっている。
右手に1029m標高点ピークが見えている。そちらにはフェンスがあって行けない。斜面が急になってきて、フェンスもところどころで倒れている。足袋のスパイクに引っかけないように注意して下る。
(フェンスにつかまって通過)
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(親水公園が眼下に)
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(くぐって)
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ようやく親水公園の駐車場が見えてきた。左下には導水管橋。ほっとして休憩。
ここからが実は大ごとで、看板の真後ろ上に立ったはいいが、そちらにはフェンスで降りられない。なおも行くと、フェンスは左下に向かっていて、これに沿って下ったらえらいことになりそうだ。結局、フェンス下の穴くぐりを2回やって、ようやく東屋に着いた。何とも骨折りの長くしんどい岩峰群尾根下りだった。車道歩きにしておけばよかった。
(東屋でゲンナリ)
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(駐車場に向かう)
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東屋で最後の休憩。今日は山でタバコを吸い過ぎた。10本は吸ったかも。半分以上は岩峰群尾根エリアだ。それでいて、飲んだ水は1リットルだけ。ほっとしたら空腹を感じた。残ったオニギリを一個食べる。
遊歩道を使って案内所に出て、顔を洗い、手ぬぐいを水に浸して身体を拭く。自販機でコーラを買ってがぶ飲みする。人心地がついたところで駐車場に向かった。
(あの看板の裏手で抜け出せずに四苦八苦していた)
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(駐車場)
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駐車場には車が7台。テント泊の方々もいるのだろう。地図上では何ということもないルートを歩いたが、11時間歩きになってしまうとは予想だにしなかった。実は、今日の予定として、この後に、きりんこさんご紹介の「魔王山」を組み込んでいた。こんなに時間に歩くわけにもいかず、車窓から魔王山を右手に眺めただけで通り過ぎた。今の自分の状態ではまさに魔王のような存在だ。
(付録。昨年10月撮影。塔の峰のドンピシャ尾根)
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銅親水公園駐車場(6:15)……仁田元沢入渓(7:30)……ドンピシャ尾根取付き(9:30-10:00)……塔の峰(11:50-12:25)……熊の平(13:35)……向山・1251m三角点(14:10)……岩峰群尾根・仁田元沢右岸尾根……東屋(16:50)……駐車場(17:13)
3月に親水公園の駐車場で、足尾のRRさんから、仁田元沢から北側の尾根を使って塔の峰に登ってこられたという話をうかがった。その節はペンキ落書きのこともあって、こちらから、コースを根掘り葉掘り聞くわけにもいかなかったが、「ドンピシャで塔の峰の山頂に出られる」とおっしゃっていたことだけは記憶に残り、後日、これを頼りに地図で調べた。それらしき顕著な尾根が3本ほどあるが、ドンピシャとなると、ほぼ特定できる。いずれ行かないとなぁと思っていた。何せ、塔の峰は山名板を設置するほどの好きな山だし、RRさんのように全尾根踏破まではいかずとも、危ういルート以外なら、聞けば試してみたくもなる。
駐車場には10台ほどの車。釣りの方が2人いた。それ以外は出払っている。そういえば、手前の無料駐車場にも釣り準備の方が複数いた。仁田元沢に釣り人が入っていなけりゃいいが。余計な神経を使いたくはない。3週間前に行かれた瀑泉さんが見た「大イワナ」の真新しいペンキをふと思い出す。天気はどんよりだが、中倉山も見えている。午後から陽が出てくる予想にはなっている。
(横場山が黄色くなっている)

(これが正体)

(ホタルブクロと言うらしい)

歩き出す。横場山の斜面が黄色い花に覆われている。赤倉山の裾野にも見えた。この花、林道でも見かけたが、エニシダのようだ。荒れ地でも育つ花なのだろう。上に行くほどにエニシダは少なくなっていった。
林道歩き。いつもの見慣れた光景だが、緑がかなり濃くなっている。サルの群れが横切る。ほどなく、いつものようにゼーゼーとなった。中倉山登山口で休憩。微風ながらも汗をかいている。今日は履き替え用の地下足袋を荷物に入れているし、水も普段持つこともない2リットルだ。さらに念のためにロープも持ってきている。今は沢靴を履いて歩いている。この沢靴、沢よりも尾根筋や林道を歩いている方が多いから、そろそろ底がダメになりつつある。ソール交換だけでも7,000円するらしいから、買い替えだろう。昨年、瀑泉さんの真似をしてサワーサンダルなるものを購入したが、今のところ出番はない。
(帰りはあの尾根を右から左に下ることになる)

(仁田元川五号砂防堰堤)

一か八か沢は繁った葉で薄暗くなっていた。上からでは見通しがきかず、沢の様子は窺えない。復路はここを下って来ることも想定している。スリットダム(仁田元川五号砂防堰堤)に到着。これを越えるのは4回目になる。1回目は、越えてから沢を渡ってすぐに右岸尾根に向かったから、沢の歩きは実質3回目だ。今日の水量はいつもよりも少ないような気がする。それはそれで助かるが。
沢靴で来ているから、ここではヘルメットをかぶり、ネオプレーンの脚絆を巻くだけ。釣り人はいないようだ。石の上に濡れた足跡は見えない。この天気では、足跡が残っているはずだ。まずはほっとした。ただ、左岸から注ぐ直瀑まで行ってみないことには何ともだ。あそこで不快な思いをしている。
(では)

(水はやはり少ない気配)

今日の仁田元沢遡行、今季の沢初めとはいえ、沢歩きを楽しむ気分で来ているわけではない。目的はドンピシャ尾根だから、まして一人での遡行だ。ハイトスさん、ちょっとばかり泳いでよといった余興というか楽しみはない。水流に逆らうようなことはせず、巻けるところは巻くことにするつもり。沢で体力を消耗していたのでは、本番の尾根が登れなくなる。
沢の水はまだ冷たい感じだが、季節相応だろう。濡らすまいと、石の上をピョンピョンと飛び跳ねて歩いたが、ヌメリで滑ってドボン。もうしょうがないなと、ジャボジャボ歩きになってしまった。むしろ、これが自然の沢歩きというもの。
(最初の左岸からの直瀑が見えてくる)

(こんな状態だ。裏見の滝どころか裏が見えている)

(こちらも)

左岸直瀑が見えてきた。周囲を見渡す。ふみふみぃさんが中倉山からこの辺に降り立ったようだ。上り時使用にしても、ここには、そんな安全に登れそうなところは自分には見あたらない。むしろ、先の方にはいくつかあった。今度、機会があったら試してみよう。ブナの樹にドンピシャで着くルート。先の西側からが安全だろう。
水量はやはり少ない。左岸直瀑は裏見の滝にはなっていないし、水をかぶることもなく「ハイトスさん、行かないの~」のスダレ状滝の前に出られた。以前、ここでクサリを見たが、水量の少ない今に見ても、それらしきものは見あたらない。流されてしまったのか。ここはためらわずに左岸側をあっさりと巻く。
(まぁ、それなりに)

(楽しんではいる)

(飽きることはない)

(あんなのや)

(こんなのや)

(2番目の左岸直瀑はチョロチョロ)

(これでもういいか)

次々に見覚えのある小滝を通過したが、水量のない分、さほどのインパクトはなく、そこらの平凡な沢といったイメージだけが増す。自分には、これで十分な沢レベルで、結構、楽しみながら歩いている。先の左岸に落ち込む滝も、水はチョロチョロ。昨日は雨も降らなかったのだろうか。ちょっと寂しいといった気持ちもなくはない。
(正面に岩峰。3週間前の瀑泉さん写真とはえらく違って、かなり隠れてしまっている)

退屈し始めた頃に正面に岩峰が見えてきた。地図上の1162m標高点の近く。以前、この辺りの尾根から沢入山に登った。沢入山の南尾根といったところか。標高差でいえば、沢入山までは530mほど。かたやドンピシャ尾根の場合は、末端から塔の峰までは500mくらいだが、取り付きまではここから70~80m近く登らないといけない。沢の方が高度差を感じないで歩けるのがうれしい。尾根末端はまだ先だが、右岸側の形相が気になってくる。同時に、春ゼミがやたらと鳴いていることにここで気づいた。春ゼミの鳴き声は、尾根に乗るとやがて聞こえなくなる。そういえば、「大イワナ」ペンキには気づかなかった。今にして改めて思い出した。
(この奥に12m滝があるらしいが、これでは)

右から枝沢が入る。瀑泉さんのレポには、この支流の先に12m滝があるとのことだが、この水具合では大して見栄えのある滝ではあるまい。沢の水の少なさにほっとしながらも、激しい流れの小滝を見られないでがっかりしている矛盾した気分。
一回間違った。ここならと思って入り込んだ尾根の末端。地図を見るとまだ先で、これを登ると、1528mに出てしまう。この先、なだらかな斜面があまり目に入らない。せいぜい沢状の窪みのところは緩いが、尾根らしき出っ張りは崖やら急斜面になっている。ドンピシャ尾根は大丈夫だろうかと気になってくる。地図どおりなら楽勝だろうが、今のところそうはなっていない。無理ならその先の尾根か。それとて、瀑泉さんの写真を見る限りはもろそうな尾根の気配だった。
※記載事項にミス。瀑泉さんコメントご指摘で、12m滝のある支流沢はもっと先であった。そういえば、ハイトスさん、みー猫さんと行った際、この先の分岐でどちらを選ぶが迷うことがあった。その分岐沢だった。写真コメントも含めて、原文はそのままにして、ここで訂正。
(この辺から取り付くとする)

沢に戻って、なおも行く。ここだなと思うところは緩斜面でほっとした。そこでしばらく休み、沢靴から地下足袋に履き替える。そのまま登ってもいいのだが、水を含んだ靴下がよじれ、いずれはマメができたのでは苦痛な歩きになる。すべて交換する。水分が加わり、ザックが重くなった。少し軽くしようと、ストックを外す。地下タビはスパイク、脚絆はメッシュ。スボンの裾は中に入れずに外に出した。中に入れるのは素人らしい(笑)。沢靴がなかなか脱げず、さりとて無理矢理やると、過去の経験からして足が攣る。時間がかかった。ついでに、沢上がりで足が攣らないようにと、両足にふくらはぎサポーターを巻く。足元スタイルだけはこれでいいだろう。
(ドンピシャ尾根の末端部)

(いきなりこんなだ)

ドンピシャ尾根末端に向かう。そして登る。いきなり高い岩場が現れた。まぁこんなものだろうなとこらえる。巻くことを考えたが、巻きはできそうにもない。岩溝を伝って何とか行けそうだ。木に手をかけたらポロッと折れた。足元はグズグズ。生きていそうな根や木につかまって何とか登ったが、ストックがやたらにじゃま。収納したいが安定した場所がない。ザックに括ったヘルメットが木や岩角にぶつかって、頻繁に金属音ががなる。
岩場を何とか乗り越えた。カラカラまではならないが、ノドが渇いた。水を飲む。ふと、左下を見ると、何だ、末端から登らずともに、緩い沢状のところからここに這い上がれたじゃないの。後の祭り。取りあえず最初のアクシデントは突破したが、ここを下る気にはなれない。ロープが必要だ。RRさんには印象にも残らないところだろうが。
(続いてシャクナゲ)

(そして普通の尾根になる)

続いてすぐにシャクナゲヤブが出てきた。ふみふみぃさんの言う「シャクナゲさん」とは違っておとなしい繁みだ。花はすべて落ちている。それでも、ザックにストックを戻したから、ストックの先端がシャクナゲの枝に引っかかって、歩行が滞る。一帯がそうなっているから、ここを巻くとなるとかなりの迂回になりそうで、辛抱して行くしかない。
シャクナゲヤブの通過は2回目のアクシデントともなるのだが、試練というほどのものではない。解放されると、地味系の普通の尾根になった。邪魔をするのはせいぜいコメツガ程度のもので、さりとて支障にはならない。この尾根、瀑泉さんブログのコメントに、RRさんが「全体に薄暗い尾根」と記されていたが、この時期なのか、さほどの暗さは感じないでいる。
(特徴はない。ヤブも大してない)

(こんな開けたササ原もある。向かいは中倉尾根)

ツツジは最近まで咲き誇っていたのか、地面に随分とピンクの花びらが落ちている。盛りの頃はきれいだったろう。今はひっそりと白いツツジがあちこちに咲いている。遅れ咲きのアカヤシオはもう疲れきっている。
普通の尾根に比べると傾斜が少しは急か。今のところ、展望が決して良くはなく、新緑のこの時期よりは、葉の落ちかかった晩秋の頃の歩きがいいかもしれない。尾根のこの先は見えず、振り向いてうかがえる中倉尾根は視界の狭いものだ。沢入山とオロ山を結ぶなだらかな丘状の稜線の一角が見えている。
シカ道だけが通っていて、これを辿って登ると楽だ。急なところはジグザグにもなっている。当然のことながら、テープ類は一切ない。間違うことのない明瞭なこの尾根にテープをつけるのがいたとしたら、それはアホでしかあるまい。
(そして一基目。シカ骨を集めたのかと思った。RRさんらしからぬケルン)

(中倉山の上に男体山の頭)

(二基目。かろうじてか)

低いササ原や樹の根の張り出しが続く。傾斜の緩やかなところに出ては休む。たまに中倉山が見えることもあるが、上に登っても、まだ眺望を期待はできないでいる。1480m付近で小ぶりのケルンを目にした。周囲に大した石はなかった。寂しいケルンになっている。RRさんも石を探し回ったのだろう。ここでドンピシャ尾根行程のほぼ半分だ。
展望がぽっと開けた。中倉山の台地が平らに見える。後ろには男体山。すぐ隣に塔の峰の東側に至る尾根が並行して乗り上げている。この展望、この尾根としては貴重かもしれない。そして、改めてのケルンがあった。石の量が少し増えた。さらに積もうと思ったが、手ごろな石はなかった。
(オロ山と沢入山の間の稜線)

(シャクナゲ)

(大きな岩がゴロゴロしはじめた)

(巨岩を巻いた)

沢入山が何とか見えてきた。ここは、上がるに連れ、徐々に展望が広がる尾根のようだ。もっと期待したいが、どうだろうか。塔の峰山頂からも、中倉尾根はストレートに見えないのだから。
ゴツゴツした大きな石が出てきた。そしてシャクナゲの花がまばらに咲いていた。ここも、シャクナゲさんレベルになってはいない。シャクナゲに気をとられていたが、石は次第に大きくなっていき、やがては巨岩になった。まさか、ここで敗退はないだろうな。左右、どちらでも巻けそうだ。左から巻いた。さほどの恐怖は感じなかったが、巨岩の上に出てほっとした。蛇足だが、ノドは渇かなかった。強いての3つ目のアクシデントか。一服する。標高1580m付近だ。あと150m。
(一服)

(遅れて来たアカヤシオ)

この先、コメツガ、カラマツ、ブナといった、針葉樹、広葉樹ごちゃ混ぜの雑木の中の登りになった。天気の良くない日は確かに薄暗い、不気味なところかもしれない。盛りのアカヤシオが1株目に入った。今季に見てもらったのはクマ、シカ、サル以外は自分だけだろう。来年も、再来年も見る者もなくひっそりと咲き続けるのだろう。
(ようやくの展望地。右端、男体山)

(左にオロ山。これが視界の限界だったが)

右手・西側にようやく今日一番の展望地。オロ山から男体山が見渡せた。日光白根も見える。残念ながら、皇海山と庚申山は西隣の尾根の突き上げが邪魔で見えない。ということは、展望を楽しむならあの尾根かもしれない。
(間もなく山頂)

(ここに出た)

そろそろ最後のひと踏ん張りだ。左手上は空が切れている。ここだけが突き上げ状態になっている。ヤセた樹の間をかいくぐり、作業用らしき細い半端な長さの残置ヒモが樹に結わえてあるのを見ると、ひょっこりと山頂に出た。山頂石柱までは10mのほぼドンピシャだった。このドンピシャ尾根、地味尾根の部類ではあったが、アクシデントも大したことはなく、自分にはお好み系だった。RRさん、ありがとうございました。
(シロヤシオは満開)

(こちらも)

山頂もまた見慣れた風景だが、今日は新緑というか深緑で、あちこちに白いツツジが咲いている。まずは山名板を手拭いで拭いた。セルフ写真も欠かせない。写った我が表情は、いつも以上ににこやかだ。周辺をぐるっと見回り、一通りの手続きを終え、ようやく倒木に腰かけてまったりとなる。だ~れもいない。静かだ。
陽はまだ出ていないが、じわじわと暑くなっていて、身体はかなり汗ばんでいる。微風が流れて心地よい。12時。それほどの食欲はないが、ランチタイムにする。オニギリ一個とウィダーインを半分。
さて、下りはどうしよう。目的は達成したのだから、余計な歩きはすまいと思ってはいるが、安易に歩いて長い車道歩きになるのではたまらない。さりとて、また仁田元沢に下るのもどんなものか。家には、岩峰尾根下り予定と書き置きしてきている。一か八か沢もいいが、スパ足袋では危ないのではないか。現にここまでの尾根で、岩場で軽く滑っている。当初の予定どおり、向山(1251m三角点)経由で岩峰群尾根に入り、ドンピシャで親水公園に出るルートで下るか。それにしよう。ここまではいいが、実のところ、スパ足袋での岩峰歩きはかなり危うく、必然的に慎重歩きになり、体力消耗もさることながら、相応の神経疲れをすることになってしまう。スパイクのない地下足袋にすればよかったと後悔した。そんなことは理屈以前の問題なのだが。
(シロヤシオを見ながらの下り)

シロヤシオを見ながらの下りになった。このシロヤシオ、葉の緑色に吸収され、青空でもバックにしないと、ツツジなのかどうかもわからない。空はまだ白い。まずは1528m標高点を目指す。3月に来た際には、その先の熊の平手前の岩場で南側に巻いて失敗している。今日はしっかりと踏み跡を追うようにしないと。ここは春ゼミもまだ鳴いていない。シーンとして音もなく寂しい。スズだけでは心もとなく、最近入手した、けたたましい音を出すホイッスルをたまに吹く。
(赤いのが出てくる)

(これでは尾根も外してしまう)

1528mを過ぎると、白に混じって赤いのをちらほらと見かける。やがて、白は消え、赤だけになった。何ともすごいヤマツツジの群生になっている。歩くピッチが一気に遅くなり、尾根から外れることしばしば。だが、アカヤシオと違って、飽きるのが早いのもまた確かで、先週も赤城山で見ていたので、次第に、またか、もう終わってくれないかとうんざりするようになっていく。
(最初の岩に青ペンキ)

(うるさく続いて)

(熊の平)

岩場にさしかかる。今日はうまくここに来られた。3月の時は、おそらく、この手前で別のところを歩き、見上げると強烈な岩場になっていたので、そのままに大巻きしたといったところだろう。最初の岩には、大分薄いが例の青マルの青ペンキが落書きされていた。
熊の平に到着。ここもまた手順があって、まずは念のために謎のオブジェを確認。歩き回ることはなかった。倒木に腰かけて一服して水を飲み、チョコレートを食べウィダーインの残りを飲む。一か八か沢下りが気になったが、やはりこのまま岩峰群尾根の下りにしよう。
向山にはここからの直登を考えていたが、かなり高く見え、舟石新道経由で1200mピークとの鞍部から登ることにする。かなり前、向山から熊の平に直に下り、枝ヤブのひどさに辟易したことがある。ここは体力温存とする。
(向山に登る)

(春ゼミ)

(向山山頂から)

散々下った後の登り返しはつらい。たかが80mほどのものだが、かなり応えた。向山の山頂でへたり込んだ。春ゼミが飛んできて、目の前で落下した。もう大分弱っているのだろう。手のひらに乗せたら、鳴き声をあげ、最後のあがきで飛んで行った。
ここからは岩峰ルートになる。ここは一昨年、末端から歩いている。今日はその逆歩き。本来の岩峰群コース(ハイトスさんと歩いたことがある)は舟石新道に下るようだから、勝手に「仁田元沢下流部右岸尾根」とした。余談だが、先日、仁田元沢右岸尾根(南岸尾根と記す方もいるが)をネットで検索していたら、この右岸尾根を経由して中倉山に行った方がいて、どうやって行ったのかと驚きながら記事を拝見すると、井戸沢右岸尾根と勘違いされての記述だった。今でも気づかぬままだろう。地図を見たりしないのだろうかと不思議に思った。
では下る。身体はかなり汗ばんで、極めて不快な状況。見上げると、ここでようやく陽が出てきた。こうなったら、さっさと下ってしまいたい。
(下って登ると)

(第Ⅳ峰)

(第Ⅳ峰から。これから下る尾根。Ⅲ、Ⅱ、Ⅰが見えている)

一旦、隣のピークに向かい、そこからの下りになる。やはり、緑が濃くて、林の中は薄暗くなっている。またヤマツツジが群れ出したりするから、初めての尾根の気分だ。2回も歩いているのに、まったく記憶なしの風景になっている。隣のピークは細くて平ら。変哲のないピークだ。ここからさらにどんどん下って、これでいいのかと思ったところで登り返す。テープはないが、薄い踏み跡は続いている。突然、藪から棒に台形状の岩峰が目の前に現れた。これはだれが名づけたのか第Ⅳ峰。向山を第Ⅴ峰と呼ぶ方もいらっしゃる。
この第Ⅳ峰、向山の南西側にある1250mピークから眺めた際には、何とも不気味な岩峰に見えていた。ここを登らずに済ませられる方策はないかと探りを入れたが、周囲は切れ落ちていて、一旦登って反対側に下るしかないことがわかった。仕方ない。ここで、スパ足袋が岩場では危ういことを知った次第。
長居をするところでもないので、さっさとザレ場を下って尾根に復帰。ここもまたどんどん下る。そして鞍部。この鞍部の横切りが、ふみふみぃさん秘密の抜け道ルートらしい。ここを下ってみるかと思いもしたが、思っただけで終わり。ガレ場、ザレ場の下りを、この地下足袋ですんなりと歩けるわけがあるまい。確実にひっくり返る。
(1133mから第Ⅲと第Ⅱ峰)

(第Ⅱへのプチキレット)

(第Ⅲを振り返る。後ろに第Ⅳ)

登り上げて1133m。第Ⅲ峰はこの先にある。第Ⅲ峰越しに第Ⅱ峰、第Ⅰ峰が見えている。これだけでうんざりする。第Ⅲ峰からは露骨にヤセたザレ尾根になった。強い風が吹いていたら危険だろう。
(第Ⅰ峰。あちらに用事はないのに間違って向かってしまった)

慎重に渡って第Ⅱ峰。ここでほっとする。というのは、第Ⅰ峰には用事がないから、岩峰はこれで終了となる。一服して大休止。ところが、ここでとんだボケをした。ここからは一旦、北側に下らないといけないのだが、第Ⅰ峰への踏み跡を辿れば、自然に分岐になっていると勘違いしていた。分岐はなく、そのまま第Ⅰ峰に向かっている。第Ⅱ峰に戻った。大汗をかいた。北側にはストレートの踏み跡が続いていた。第Ⅰ峰に行っていたら、舟石林道を歩くことになっていたろう。
ところで、背中のヘルメットの存在はすっかりと忘れていた。こんな険阻なところでこそかぶるものではなかったのか。
(普通の尾根に戻った。RRさんがクマとにらみ合ったのはこの辺だろうか)

(まだまだ高い。正面は横場山)

(フェンス沿いに)

(こんなところもある。かなり暑くなっている)

ようやく、井戸沢右岸尾根のような尾根になった。ザレたところもあるが、ちょっとしたヤブやら樹もあって、安心して歩ける。ところが、これもまた束の間で、フェンスが出てくると、えらく歩きづらくなる。フェンス沿いに踏み跡は続いているが、崩落しているところもあって、一昨年よりも条件が悪くなっている。
右手に1029m標高点ピークが見えている。そちらにはフェンスがあって行けない。斜面が急になってきて、フェンスもところどころで倒れている。足袋のスパイクに引っかけないように注意して下る。
(フェンスにつかまって通過)

(親水公園が眼下に)

(くぐって)

ようやく親水公園の駐車場が見えてきた。左下には導水管橋。ほっとして休憩。
ここからが実は大ごとで、看板の真後ろ上に立ったはいいが、そちらにはフェンスで降りられない。なおも行くと、フェンスは左下に向かっていて、これに沿って下ったらえらいことになりそうだ。結局、フェンス下の穴くぐりを2回やって、ようやく東屋に着いた。何とも骨折りの長くしんどい岩峰群尾根下りだった。車道歩きにしておけばよかった。
(東屋でゲンナリ)

(駐車場に向かう)

東屋で最後の休憩。今日は山でタバコを吸い過ぎた。10本は吸ったかも。半分以上は岩峰群尾根エリアだ。それでいて、飲んだ水は1リットルだけ。ほっとしたら空腹を感じた。残ったオニギリを一個食べる。
遊歩道を使って案内所に出て、顔を洗い、手ぬぐいを水に浸して身体を拭く。自販機でコーラを買ってがぶ飲みする。人心地がついたところで駐車場に向かった。
(あの看板の裏手で抜け出せずに四苦八苦していた)

(駐車場)

駐車場には車が7台。テント泊の方々もいるのだろう。地図上では何ということもないルートを歩いたが、11時間歩きになってしまうとは予想だにしなかった。実は、今日の予定として、この後に、きりんこさんご紹介の「魔王山」を組み込んでいた。こんなに時間に歩くわけにもいかず、車窓から魔王山を右手に眺めただけで通り過ぎた。今の自分の状態ではまさに魔王のような存在だ。
(付録。昨年10月撮影。塔の峰のドンピシャ尾根)
